「MK磁石」の発明秘話

三島徳七博士は工学博士の学位を受けて、研究生活に入ります。

 1928(昭和3)年、工学博士の学位を授与されると、徳七博士は自分の研究室を持ち自由な研究に打ち込みます。2名の助手を雇い、独創的で思い切った研究に没頭しました。
 博士は、当時3つの研究課題を持っていましたが、そのうちの1つが「鉄・ニッケル合金の磁性に関する研究」で、この研究が後のMK磁石鋼発見の重要な手がかりとなりました。

ニッケル鋼の「行き」と「帰り」に注目しました。

 博士がまず着目したのは、ニッケル鋼(鉄にニッケル25%の合金)の研究でした。このニッケル鋼は当時、無磁性材料として広く工業用に使われており、鉄もニッケルも強磁性体であるのに、この合金には磁性がないというものでした。
 この合金の磁性変態点(磁性が変わるときの温度)は、温度をあげていく『行き』と温度を下げていく『帰り』とでは400℃くらいの開きがあり、従ってこの合金を一度高温まで加熱し無磁性の状態にし、それを冷たい空気中で急に冷やすと、途中で磁気変態を起こさぬまま常温に達して無磁性になる。そうしたことから、この合金は「非可逆鋼」と呼ばれ非常に珍しい現象でした。

博士は、合金の組み合わせの実験を重ねます。

 博士は、この合金の『行き』と『帰り』の変態点を縮めていけば、何か新しい現象が起こるのではないかと考え、変態点の開きを縮めたとき、磁性にどんな変化が起こるかを実験してみることにしました。
 それには、400℃という変態点の開きを縮める元素が何かを推定して見つけださなければなりません。つまり、非可逆鋼のニッケル鋼にどんな元素を入れたら変態点の開きが縮まり、「可逆鋼」になるかということです。
 博士は、アルミニウムが鉄の変態点を上げる傾向があることはすでに分かっていたので、アルミニウムが可逆鋼の働きをするのではないかと考え実験を重ねます。いつものやりかたで、ニッケル鋼にアルミニウムのパーセントを変えた直径5㎜、長さ15㎝ほどの実験用サンプル棒を何十本も作り、しらみつぶしに磁性の変化を調べていきました。

答えは、思いがけない形でやってきました。

 ある日、職工の杉浦氏にサンプル棒の仕上げを依頼したのに一向に持ってきてくれません。まじめな人柄で、いつ頼んでも翌日には仕上げてくれるのに、その日に限って研究室に現れませんでした。そこで、地階の工場に下りていき…「杉浦くん、いっこうにサンプルを仕上げてくれないじゃないか。待っているんだよ」。「先生、変ですよ。きれいに仕上げようと思って、こうしてやっているんですが、うまくいきません」。
 博士がよく見ると、旋盤のバイトはいつものように走らないし、けずりくずは落ちない。旋盤にくっついたままです。バイトが走らないのも、けずりくずが落ちないのも、実験用サンプル棒から発する磁性のせいではないか?。博士の脳裏がひらめきました。

ついに発見!
永久磁石となるMK磁石鋼の誕生です。

 その時の合金の配合率は、「鉄にニッケル25%、アルミニウム8%」でした。助手の八十島氏は、鉛筆くらいの太さで、長さ7㎝の合金棒が同じ大きさの磁石を数センチも反発して上に持ち上げているのを見て驚き、また博士も今まで見たことのない強力な磁石合金が、いま目の前にあるのを見て、驚きと同時に喜びを実感します。待ちに待ったMK磁石鋼発見の瞬間でした。

磁石は、身の回りのこんなところに使われています。

私たちの暮らしに必要なほとんどの電気製品のモーターやIH調理器、スピーカーなどには磁石が使われています。また、カセットやビデオテープ、フロッピーディスク、磁気カードでは、小さな磁石の粉によって情報を記録させているのです。

●電子レンジ ●炊飯ジャー ●ホットプレート ●IHクッキングヒーター ●マイクロコンポーネント ●冷蔵庫 ●航空機 ●自動車 ●電子工学 など

▲故郷の広石小学校に寄贈されたMK磁石鋼の記念碑